コラム
企業を取り巻く現状と展望
現在、日本経済の低調さが指摘されています。GDPは世界3位の規模ですが、大きな成長はなく、教育水準は世界7位から14位へ下降し、特許出願件数は世界3位の水準を維持していますが、中国、韓国が増加傾向にあるのに対し、日本、アメリカ、ドイツは減少傾向となっています。情勢として、成長から成熟へという姿が映し出されています。つまり伸びが止まるという状態で、様々な業界で確認できる状態となっています。イノベーションが求められる所以となりますが、ふりかりますと、1980年代の拡大成長期を経験し、1990年代のバブル崩壊後、多額の負債とその返済に追われ、サイズダウンを行い、2000年代、海外市場での拡大成長を従来の経験値で乗り切ろうとするとする企業の姿がありました。円高基調の中、海外への工場移転、市場化による活発なグローバル化への取組みとなりました。2010年代にはいるとイノベーションの取組みに活路を求める動きが生れていましたが、これからという時にコロナ禍で状況が一変しました。2020年以降は今までとは違う、経験したことのない状況に置かれ、今までの経験知ではない、新たな知識創造を求める声が拡大していることが確認されます。この3年間の苦難の中で、私たちはある結論に到達することができました。それは「知識創造」による新たな革新への挑戦と言えるものでした。知識創造の力が弱まっているという認識もありますが、その知識創造は人が自分の感性や知恵を、仕事を共にしている人々との関係で合意、共有し、発展させ、昇華させ、それまで無かった、気づかなかった知識に到達する活動と言って良いでしょう。これを具現的に戦略的な取組みにしていくことで、大きな成果が得られ、大きな変革と成長への機会が広がるという可能性に期待が寄せられています。実際にそのような取組みを行った企業で成果を上げているということも確認されていますので、組織的にこれをどのように取り組んで具現化することができるのか、試行錯誤が繰り返されています。
組織の成長にとって必要なことは
弊社の組織診断や人財診断の調査データを解析すると、何が企業成長の原動力になるのかが浮き彫りになってきます。原動力には二つの要素があり、一つは「ビジョンへの情熱」ということになります。ビジョンを掲げているだけでなく、トップから社員の端々に至るまで業務遂行がビジョンに結びつき、ビジョンに情熱を多くの方が感じているという状態になっていることを意味しています。これができてくると、戦略計画の遂行が効果的になり、新たな組織能力の蓄積に繋がっていくことが確認できます。そして、社員の成長が効果を発揮し、そのビジョンを更に強化するというサイクルが確認されます。ここで組織運営ではそのような作用をもたらすビジョンを描き、浸透化させることが求められます。
もう一つは「価値基準の明確化」ということになります。これは組織で重視している価値観の実践のことで、価値観を標榜し、それを行動規範に落とし込んで、社員の共有、実践を促し、実体化しているという状態です。これができていると、戦略の遂行だけでなく、業務のオペレーション効果が高まり、モチベーションの向上につながっていきます。この活動の中で、社員は組織の一体感を感じるようになり、更なる価値基準の強化につながっていきます。
この2つのサイクルがもたらすものが人財育成の有効性を高め、目標達成、組織の成長という成果をもたらすことになります。持続的成長に欠かせない要因と言えます。この方向性を確認しながら努力されている企業は様々な変化を組織内に起こし、それが市場に反響を生み出し、成果を上げていることが確認できます。つまり、必要な知識創造が起こっているということが確認されます。こういう作用が理解されていないと、持続的にこの状況を組織にもたらし、体質化することができずに、元の木阿弥になるということも確認されています。その為に、いくつかの転換を組織運営では図らなければならないことが浮き彫りとなります。
推進力となる人財を発掘し、育成・活用を図る
弊社の人財調査は気質、対人関係、コンピテンシーの傾向から人財を把握し、育成に活用するデータとしてご活用いただいていますが、その診断データを解析すると、弊社ではバリューアップ人財(V人財:事業価値を高める人財)という人財が効果的なリーダーシップを発揮すると、事業の将来を左右するようなアイデアや影響力を行使する人財であるということが判明しています。こういう方々は中々、人財としての特徴を理解してもらえていないことも確認されているのですが、活用を図ると目に見える成果をもたらしてくれるということも事実として確認ができました。また、優れたマネジャーとしてのオーガナイジング人財(組織を動かす影響力の行使の効果を高める人財)、イノベーティング人財(組織に新しさをもたらす取組みを推進する人財)などの陣容を整えなければならないということも明確になっています。この人財が不足しているとマネジメント不足の減少が組織に起こっている状況となることも確認されます。
現在の企業内教育やOJTで育つ人財は、専門的な役割を遂行する人財が結果として多く、従来の教育訓練も見直しを掛ける必要があります。多くの場合、専門性を身につけて、その専門性で生計を立てるという働き方が主流になっているということでしょう。状況に柔軟で、そこにある能力を巧みに活用、組織化し、課題達成に向けて挑戦的な役割を果敢にとるという人財が不足しているということも気がかりなデータとなっています。階層別研修という取組みも能力のばらついている状態では効果は低いと懸念されます。
そして、人は自分が望む方向に向かって変化しますので、どのような方向づけを行うかということと、本人がその方向を合意するかという二つが確認できれば、必要な変化を起こすことは可能です。人は変わらないという前提を持つと不自由この上ないことになりますが、教育訓練の効果を否定することにもなりかねません。変わろうとすれば変わるのが人で、人が変わらないのは変わろうとしないからです。本人、並びに周囲の努力によって、望む方向に変化は起こります。
個人から集団のアプローチへ
現在、多くの企業では「ダイバーシティ」、「エンパワーメント」、「エンゲージメント」というテーマを掲げて、女性活躍推進、多様性の尊重、次世代の主導的な能力発揮、離職率の低減、等々の問題解決に取り組んでいます。その方向性として、セルフエスティーム(高い自尊感情、自己充実感)の向上というものが横たわっています。各企業の取組みは“個の強化”を図り、個々人の意識や態度が変わればという取組みが多く見受けられます。果たして、これで目論んだ成果が得られるでしょうか? 残念ながら、多少の効果は確認ができるようですが、長期的に持続しないというお悩みを抱えています。これは当然で、組織には一人で成り立つ仕事はなく、二人以上の人間関係で仕事が成り立っています。当然、対人関係の問題を考慮せざるを得ません。対人関係の訓練でも、人前に立って、自らの言いたいことを言うということは大変なハードルであり、それを苦手とする人も多く、この問題をクリアしないと成果が生まれないのです。対人間の問題を解決するには集団を活用することが活路になります。集団の雰囲気や行動規範が個人に影響を与えます。個人が集団に同調したり、抑圧されたりして、自己発揮を抑えてしまうということになりがちです。これらの問題を解決していかないとセルフィエスティームが高まるという成果は生まれません。
対人関係や集団の中での自己発揮という課題をどう扱うかは重要なテーマで、対人関係では、自己発揮と合わせて、他者発揮をどう受け止めるかも課題となります。自己発揮と他者発揮を促すために、他者とのチューニング(相互理解を促す方法)、受容、共感、アサーション(適切な主張)、葛藤解決などのスキルアップが必要となります。これだけのスキルがあると、他者発揮と自己発揮を相互に行うことが可能になり、相互に自己有用感、自己効力感、自己肯定感を高めていくことが可能になります。これを1対1の関係だけでなく、集団で実施するとグループエスティーム(“集団高揚感”という意味の弊社の造語)が感じられ、相互にワクワクするような生産的な刺激を与えあう集団活動ができるようになります。集団になれば扱うエネルギーの総量は多くなり、個人の知的達成よりも集団の知的達成は大きく、知識創造のプロセスが生まれます。ケースメソッド方式を活用した討議や集団間の連携実習や集団の葛藤解決などを扱う実習を積み重ねることで集団の変化と共に、個人の変革が無理なく起こっていることは、見ているだけで爽快感に溢れた場面を経験します。この共有された爽快感を感じ合っている状態をグループエスティームが得られていると表現しています。集団が変革プロセスを踏み始めると、そこに参画している個人も大きく変革し始めるということになります。これに参加された方々は自分が変革するということに恐れは無くなり、変化することに抵抗感がなくなり、変化を受入れていると言える状態となっています。
これを現実の職場で実行するためには、マネジメントを担う方々のマネジメントイノベーションが必要になります。
マネジメント体質の転換へ
職場が個人の変化を受けとめたり、促したりするにはどうしたらよいのでしょうか?従来のマネジメントでは、指示命令し、報告を受け、適否を判断し、督励するというものですが、これは業務を効率的に遂行していくために、管理指導するという原理に基づいており、これをマネジメント1.0と類別しています。または、統制型マネジメントとも呼ばれており、このマネジメントでは今の組織が置かれている状況を打開することができていません。上から下へ展開するマネジメントで、古くからマネジメントはこのようにするという教育が繰り返されてきたものでもあります。現在、このマネジメントではハラスメント問題や体調不良者、特に、鬱の問題など、多くの問題を抱えることにもつながっています。
2008年にゲイリー・ハメル氏を中心に、シリコンバレーのマネジメント・ラボが主催して、マネジメント イノベーションの議論が行われました。当代を代表する経営学者や実務家が集まり、議論が行われました。そこで提唱されたものがマネジメント2.0と呼ばれ、人間中心のマネジメントが提唱されました。そして、これを実践している企業で大きな変化が起こったことなども報告され、一つの改革の方向性として認識されるようになってきました。これが“人的資本経営”という言葉と共に注目されるようになってきたと言えます。現在では創発型マネジメントと呼ばれたりもしています。
このマネジメント2.0は人のエモーション(情動)やフィーリング(情操)を扱うマネジメントで、特にフィーリングの表出を促すマネジメントといって良いでしょう。フィーリングの表出は論理的である必要はなく、感覚の表出とその受容ということが大事になります。これが対人関係の強化につながり、コミュニケーションの深化につながっていきます。そして、腹蔵のないやり取りができるようになってきます。そうすると、個人間だけでなく、集団間でも葛藤解決のハードルが下がり、相互理解が深まるだけでなく、新たな知識創造がこのプロセス(相互作用)から生まれてきます。これを組織化すると新たなビジョンとそれに使命感を燃やす社員が多く輩出されてくることになります。離職率は減少し、有意な社員が多数現れ、働くことが刺激的で、社員の多くがワクワクしながら仕事をする組織に変貌していきます。このような体験をした組織では、この事業は私たちに任せてもらいたいといった掛け声も聞こえてきますし、事実のそのような原動力が大いに組織成長につながっていました。
最近では、効果的な集団活動を掛算型プロセス(本音でワイガヤを行い、全員がYESという状態になるまで議論を白熱して行うという相互作用のこと)と称して、実践していただくと、それまで問題解決が進まなかった課題や、新たな創造的な戦略立案と遂行が起こり、飛躍的に成長を遂げたという企業も現れています。このような方向でマネジメント体質を転換しなくてはと多くの企業で問題認識が高まっていますので、これらの内容は一考に値するものと確信できます。
持続的成長を図るには
時代は大きな転換点を迎えており、ここでの組織づくりが事業の栄枯盛衰を決定づけると言っても過言ではありません。今までの企業成長は、生産性の向上・効率性の追求・限界までのコスト低減等々に代表される高度成長型の取組みでした。現在は、市場価値の高い事業をいかに構築していくかということに“成長の視点”は変わっています。顧客が求める価値を探り、商品化し、高いサービスサイクルで提供していくというプロセスを迅速に取り組んでいかなければなりません。その為には、知識創造できる組織体質を構築していくことが重要な課題になっています。これが人的資本経営と呼ばれる経営態勢の姿と言えましょう。
ダイバーシティを具現化し、エンパワーメントを実施し、エンゲージメントを確立するということは現在企業が対処を求められる事項ですが、グループエスティームへのアプローチで推進することが可能になります。弊社では、これによって生み出される信頼感の高い事業活動を行う企業となることが可能になります。社会・顧客に信頼され、労使間での信頼感を深め、取引先からも信頼される企業、これを弊社ではトラステッドカンパニーとして、高く評価しています。これまでに確認された企業では、会議などの議論は活発で、ベテラン、若手が分け隔てなく議論しており、それぞれが尊重し合っている業務遂行が確認されています。成果を上げるスピードが速く、これに対応する競争企業は大変な市場状況に陥りそうだということが想像に難くない事態が想定されました。実際に、それが起こるのですから、気づきを深めた集団とそうではない集団との違いはあからさまであると言わざるを得ません。技術の使い方にも知恵がはたらき、製品開発にも社会的価値を高める要素が多いことも確認ができます。この機面で具体的に示せないのが残念ですが、この点はご配慮ください。まさに、人智を超えるということが可能であることを体験され鵜ことを期待したいと思います。未来への道はそこにある、ということに挑戦していただきたいと思います。
2023年9月19日
代表取締役 金澤 健郎
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