タレントマネジメント組織活性化はM-ITコンサルティング

« Back to M-IT BLOG top

タレントマネジメントの要件 – HRMの戦略への一体化を中心に -

タレントマネジメントの要件の1つに、人財管理、人事管理、あるいはHRMを戦略的に行なう、もしくは人的資本管理の事業戦略への一体化(align)が強調される。では、戦略的人的資源管理(SHRM)とはどういうことなのか、本稿ではこの点について検討したい。なお、Lengnik-Hallら(2009)の論文(Strategic human resource management: The evolution of the field)を中心に、この論点を探っていきたい。

 Boxallら(2007)によると、HRMは3つの領域に分けられるとされた。すなわち、①ミクロなHRMの領域、②戦略的HRMの領域、③国際人事の領域、の3つである。ミクロなHRMは、個人と小集団を管理する領域を指し、採用、選抜、誘因、訓練、人材育成、業績管理、報酬などのほか、組織と従業員の声、つまり、労使関係管理を対象とする。一方、戦略的HRMは、HR戦略全体が事業部門と会社全体によって適合し、業績に及ぼす影響を測定しようとする。国際人事は、国境を越えて会社が運営される中で運営されることである。

 過去30年間のSHRMに関する文献レビューによると、SHRMという取り組みは1920年代にさかのぼる。人的資源としての労働力の概念とHRM政策に対する戦略的観点と実践は、労働経済学者や労使関係論研究者によって議論されてきた。1920年代において既に先進的な企業はHRの実務を戦略的アプローチに代表されるものへと革新していた。

 Lengnik-Hallら(2009)によると、SHRMの文献を進化論的な視点でレビューすると、7つのテーマがそこにあると指摘している。

<SHRMの7つのテーマ>

  1. コンティンジェンシーな視点と適合(fit)を説明すること
  2. ヒトを管理するという観方から戦略的貢献を創出するという観点にシフトすること
  3. HRのシステムの構成要素と構造を彫琢すること
  4. SHRMの視野を拡げること
  5. HRの推進と実行を達成すること
  6. SHRMの成果を測定すること
  7. 方法論的な課題を評価すること

個々について概観していく。今回は1つ目の課題について紹介していく。

◆コンティンジェンシーな視点と適合(fit)を説明すること

組織科学の大半で共通することだが、HR研究者は、特定の目的、状態、そして、戦略的関心がマッチしているときに、HR(人事部門)が業績を改善していくものだと認識している。したがって、SHRMの研究は、HRの活動と望まれる戦略的成果がフィットするような状況適合的な関係と方式を見つめてきた。

1980年代初頭では、Milesら(1984)が、戦略の類型化を提案し、防衛型、探索型、分析型、反応型という類型を示した。これは、HRMにコンティンジェンシー(状況適合型)のアプローチを導出することになった。

Shulerら(1987)は、異なる戦略の類型を示した。すなわち、コスト削減型、品質向上型、イノベーション型である。ここでは、従業員が戦略にフィットすることが要請されるとされた。現在では、このような立場を、SHRMの行動的な視点と呼んでいる。

Lengnik-Hallら(1988)では、人的資源が戦略に影響を及ぼし、組織の事業戦略とHR戦略とがフィットするという、もう1つのコンティンジェンシーな視点を示された。しかし、フィットすることが重要だと指摘されながらも、必ずしもそうなるわけではないこと、とりわけ移行期には顕著になることが確認された。

Bairdら(1988)では、構成要素のうち、外在的なものと内在的なものとが合同するという概念が展開された。外在的な適合とは、HRの実践とHR戦略が連動することであり、内在的な適合とは、企業自身のHR戦略がお互いにフィットすることだとされた。加えて、HRの実践と戦略は、組織自身のライフサイクルのステージによって変化していくだろうとされた。

Jacksonら(1989)では、組織的文脈の特性(産業セクターや技術革新の段階、製造技術、組織構造、企業規模、労使関係など)と、HRの実践との経験的な関係性を強調した。この論文は、組織間と組織内とでは、HRの実践が異なるということを示した。

1990年代になると、Millimanら(1991)において、戦略的国際人事管理(SIHRM)というコンテキストが展開された。そこでは、①国際人事と組織のライフサイクルのステージをフィットさせること、②多様な人的資源の機能を内的に適合させること、③人的資源に関する実践と企業の国際的・多文化的環境を適合させること、④企業の人的資源の機能を海外子会社に適合させること、などが挙げられている。加えて指摘されたことは、変化していく組織の環境に企業が効果的かつタイムリーに適合し、HRが柔軟性を発揮することだった。

Meschら(1995)は、HRのシステムが官僚組織とSHRMを比較した。Arthur(1994)によると、官僚組織モデルではHRシステムを強く統制するもので、SHRMモデルは、HRシステムにコミットするものだと対比された。

Jackson&Schuler(1995)は、組織環境という重要な構成要素を認識することでSHRMの理論に重大な貢献をした。組織環境は、内的なものと外的なものとに分けられる。内的なものとしては、技術、組織規模、ライフサイクルのステージ、事業戦略がある。外的なものとしては、法制、社会的・政治的環境、すなわち、労使関係を含む、労働市場がある。また、産業事情や国ごとの文化が含まれる。

Wrightら(1995)では、NCAAのバスケットボールのチームの例が取り上げられているが、コーチが採用重視の戦略を取ることを好むか、チームのパフォーマンスを重視することを好むかという違いがある。その成果として、双方の関係性をサポートすることがわかり、SHRMに対するコンティンジェンシー・アプローチに対する経験的な確証を多少なりとも提供した。

Delery(1998)は、初期のSHRMが水平的な適合性を重視したことを批判した。そして、SHRMでは、水平的なものだけではなく、垂直的な適合性も重視すべきだとした。ただ、その研究は、構成概念妥当性に関してクラスター分析を用いた点が不適切であり、限られた独立変数に着眼したために、ボトムラインの業績を考慮に入れることに失敗した。ただ、シナジー効果を検討しなければならないという方向性を示した。とはいえ、研究上の課題を多く残すことになった。

Kepes&Delery(2007)は、その後、研究をフォローアップし、HRシステムには4つの内的適合があるということ

を概念化した。①内部的なHRMシステムにおける垂直的適合、②内部的なHRM活動の領域における適合、③組織間のHRM活動の領域における適合、④HRM間のシステムにおける適合、である。

1990年代になって進展したことは、初期の研究を一層、戦略研究へと展開していったことである。企業が資源ベースの観点で説明されるようになった。Boxall(1998)は、人的資源の優位性が、人的資本の優位性と組織プロセスの優位性という、2つの要素から構成されると考えた。前者は、競合他社よりも優れた人材を持つことであり、後者は、競合他社よりも優れた働き方をすることを指している。

Wright&Snell(1998)は、適合性と柔軟性の概念の理解をさらに展開した。すなわち、戦略は、HRMの実践、従業員のスキル、従業員の行動という3つの生来的な概念的変数に適合しなければならないとした。また、HRMにおける人的資源の柔軟性と、実践に伴う協働における柔軟性を区別した。組織は直角的というよりも補足的な適合性と柔軟性を促進しなければならないとした。

Carberaら(1999)は、組織文化と戦略を一体化させる必要性を強調した。文化は組織の資産であり、行動を鼓舞し、意図された戦略をサポートする。しなやかな戦略的文化は、求められる行動規準を促進し、組織の価値に合った候補者を慎重に選抜する。その後は、媒介変数としての文化の重要性がSHRMのパフォーマンスのブラックボックスとして継続的な関心が向けられるようになった。

適合性と柔軟性の議論はその後も続けられ、de Pablos(2005)は、持続的な競争優位を創出するには、組織の柔軟性と適合性(内的と外的)が同時に実現され、リニューアルされていかなくてはならないとされた。

Lepakら(2004)は、組織を横断するHRシステムの相関性を探索する枠組みを示した。事業戦略が異なれば、組織の構造化の仕方も変わってくるし、異なる技術が活用されるとした。結果的に、組織は、タスクに対して異なるアプローチをするし、従業員が異なれば、それに即した理念とポリシーが要求されることになる。HRシステムの相関性は、採用や選抜、報酬の多様性に関連していく。HRの理念は、組織内のHRのポリシーを決定する。

Werbelら(2005)は、戦略的コンティンジェンシー・フレームワークが、事業戦略を支援する組織のコンピテンシーに関連して、ヒトと環境がどのように適合するかを提案するとした。ヒトと環境の適合は、SHRMにおける、水平的、垂直的な一体化に連動した一種のピンである。

最近では、HR戦略におけるダイバーシティの重大性も検討されるようになった。

(中略)

◆コンティンジェンシーとしての設定

SHRMの領域は発展し、研究も異なる設定で検討されるようになった。製造業とサービス組織は、最初の研究では区別されたし、公務員組織やNPO、私企業などでは異なるという研究が出てきた。

Batt(2000)は、重要なコンティンジェンシーとしての文脈を検討し、第1線の従業員と顧客との関係について、製造業とサービス業とでは異なると論じた。サービス業では、組織が顧客別にセグメント化されているが、HR実務でも、セグメント化した従業員に対して合わせていく必要があると指摘した。たとえば、高付加価値の顧客に対しては高業績の就労システムが必要であるとした。

(中略)

◆競合する枠組み

1990年代、3つの異なる前提条件が発生してきた。Delery&Doty(1996)は、主なSHRM理論を分類する有効なスキームを提供している。

まずユニバーサルの視点(universalistic perspective)では、HR実務が組織の業績に対して正の効果を持つとされる(例えば、Pfeffer,1998)。本質的には、この立場によると、HRの実践は特定の戦略や特定の組織の文脈に適合する必要性はないとされる。

配置的な視点(configurational perspective)では、HR実践において独自のパターンが組織の業績に正の相関にあるとされる。

それまではもっぱら、状況適合理論(contingency perspective)が論議されてきた。

Michie & Sheehan(2005)は、英国の製造業とサービス業の事例に対してユニバーサルな視点、配置的な視点、状況適合的視点の3つを比較している。状況適合的な視点に立てば、HRの理念や実践は、事業戦略に依存するものだということになる。HRに統合的なアプローチを取る企業は、イノベーターとして、あるいは、クオリティを高める者として、事業戦略を最高水準にすることに集中する。興味深いことに、外部の流動的労働力(contingent worker)は、HRの効果性を引き下げてしまう。

(中略)

Martin-Alcazarら(2005)によると、SHRMには多様な視点が意味を持つとされ、主要な理論体系についてレビューを行なっている。ユニバーサル(universalistic)、コンティンジェンシー、配置的(configurational)、文脈的(contextual)といったものが挙げられている。この場合、文脈的アプローチとは、組織の水準を向上させ、マクロな社会的枠組みの中で機能を統合するものとされている。

◆解説

HRMは早くは1920年代から戦略志向に行われていたことが確認されているが、SHRMという概念が勃興し、盛んに議論されるようになったのは1980年代以降のことである。しかし、当初はコンティンジェンシー・アプローチがもっぱらその中心を占めてきた。

90年代以降は、それに加えて、異なるアプローチが登場し、SHRMを意識することで、人的資本と組織の業績、有効性を正の相関になるように方向づける取り組みがなされるようになった。

異なるアプローチとして登場してきたものを、次の論文からの引用と翻訳によって説明しておきたい。

 台湾の研究者Changら(2005)の論文(Relationship between strategic human resource management and firm performance :A contingency perspective)に次のように述べている。

Numerous researches have debated that SHRM has been consumed with two

competing normative schools existing: universalistic and contingency.

Universalistic scholars argued that many HR practices are consistently better than comparative practices. They claimed that all organizations, regardless of size, industry, or business strategy, should adopt these so-called “best practices” school (Arthur, 1994; Delery and Doty, 1996).

However, whether SHRM should always be positively related to firm performance

remains uncertain. Contingency scholars hold different points of view and argued that

the assumptions underlying the strategy-performance link are applicable only under

high external fit conditions (Bamberger and Meshoulam, 2000), termed the “best fit”

school (Boxall and Purcell, 2000).

戦略的人的資源管理をめぐっては夥しい研究があるが、ユニバーサリスティック学派とコンティンジェンシー学派が存在してきた。

ユニバーサリスティック学派は、多くのHRへの取り組みが比較対象となる取り組みよりも一貫して優れていると主張してきた。彼らの主張は、あらゆる組織は、規模や業種、事業戦略に関わりなく、「ベストプラクティス学派」ともいうべきものである。

しかしながら、戦略的人的資源管理はいつも企業の業績に正の相関を示すのかという点は曖昧さを残してきた。コンティンジェンシー学派は異なる観点を持ち、戦略-業績の連動は外的条件への高い適合のもとでのみ可能であるという前提があると指摘された。言うなれば、「ベストフィット学派」とも呼んでいいだろう。

 また、配置的視点について、Fernando Martı´n-Alca´zar, Pedro M. Romero-Ferna´ndez and

Gonzalo Sa´nchez-Gardey(2005)に次のように説明されている。

The configurational perspective contributes to the explanation of SHRM with a useful

insight about the internal aspects of the function, by means of the analysis of the synergic

integration of the elements that build it.

In this sense, the HRM system is defined as a multidimensional set of elements that can be combined in different ways to obtain an infinite number of possible configurations.

配置的視点は、戦略的人的資源管理を内部的な諸機能に対する有効な洞察、すなわち、諸要素をシナジーが出るように統合し、それを分析することによって説明することに貢献してきた。

その意味で、HRMシステムは、可能な配置について無限にある数を得るための異なる方式を組み合わせて諸要素を多次元的にセットすることと定義される。

  • Clip to Evernote
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
▲PAGETOP