タレントマネジメント組織活性化はM-ITコンサルティング

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キャッペリのタレントマネジメント論

ピーター・キャッペリは2008年、ハーバード・ビジネス・レビューで、「21世紀に向けたタレントマネジメント」と題する論文を発表している。キャッペリのこの論文は米国のタレントマネジメント実務にかなり強い影響を及ぼしている。たとえば、ASTDは2009年、タレントマネジメントに関するガイドラインを発表しているが、その基本的な考え方はエドワード・ローラーと、このキャッペリになっている。

 

今日、活用されているタレントマネジメントのプロセスはどれも50年前に開発されたもので、そろそろ新しいモデルにすべき時期に来ている。

 

タレントマネジメントにおける失敗は、現代の組織において経営陣にとり、現在進行中の痛みの源泉となっている。過去の世代を超えて、タレントマネジメントの実践は、とりわけ米国において、ますます機能しなくなってしまった。大手企業は、有能な人材(=Talent)の余剰から、人材の不足へと傾き、さらに、その傾向を強めている。

 

本音のところでは、タレントマネジメントは単に人的資本に対するニーズとして期待するという問題に過ぎず、そのニーズを満たすために計画に乗り出すということである。このような取り組みに対する最近の反応は、二極化している。

第1は、最も共通化していることだが、何もしないことで、そのニーズを全く期待せず、また何らの計画も持たないことだ。要するに、タレントマネジメントなど無意味ということになる。このような受け身なアプローチは、圧倒的に、人員を外から調達することになり、今となっては行き詰ってしまっている。また、人材の余剰が浸食してしまうことにもなる。

第2は、大手の、古くからの企業の中でだけ共通するもので、複雑で、1950年代からの官僚的モデルで、サクッセッションプラニングという遺産、過去の遺物ともいうべき仕組みが出来上がっており、ビジネス上は非常に予測可能になったものの、今やうまくいかなくなっている。それは、不正確で、変化の激しい環境にあってコスト高になっているという問題も抱えている。

 

内部育成は、1950年代では規範となっていて当然視されていた。そして、あらゆるマネジメント開発の実践として、今日では新鮮に見られているが、エグゼクティブ・コーチング、360°フィードバック、ジョブローテーション、ハイポテンシャルプログラムなどが行われていた。

多少の例外的な企業はあるが、内部人材育成は、1970年代に崩壊してしまった。これは、市場のますますの不透明感から、内部育成が維持できなくなってしまったことが背景にある。事業予測は、経済の減速を予測するものの、失敗し、タレント育成の経路は、時代遅れになってしまった、右肩上がりの成長があるという前提の条件が崩れ、仕組みが維持できなくなってしまった。

過剰供給のマネジャーという問題は、ホワイトカラーに対してはレイオフしないということではあったところなのだが、やがて企業という船にそうは言ってはおられなくなった。1980年代初めの景気後退の急激な局面では、ホワイトカラーにもレイオフが及び、終身雇用は終焉し、人材を育成した多くの実践的取り組みやスタッフそのものを取り除くことにもなった。その後は、先駆けてポジション(職位)を減らすようになり、とりわけミドルマネジメント層がその対象になった。組織における序列を確保するためにプログラムは維持された。

 

老舗企業である、ペプシコやGEは、現在でもなお、育成に投資しているが、「アカデミー・カンパニー(学校的企業)」として知られるようになった。そこから多くの人材が他社に移っていった。一方、多くの企業は1980年代、コスト削減に迫られ、リストラを余儀なくされてしまった。

 

2000年以降、ユニリーバのインド法人はオペレーションにおいて問題に直面した。これは1つの事例である。1950年代以来、モデルとなる雇い主となり、人材の育成に積極的な企業として知られていたが、組織は2001年以降の景気後退の局面で、事業の衰退が起こり、急速にトップ層に関するコストが重くのしかかってしまうようになり、行き詰ってしまった。その潤沢なパイプラインは、2004年において1400もの、十分に訓練されたマネジャーに担われ、2000年からは業績が27%アップした。方や、実際には、マネジャーへの需要はなくなってしまった。ユニリーバには当時、レイオフを回避するという暗黙の約束があり、これは企業が他の国際的なオペレーションにおいてポストを探してやることを意味していた。

 

伝統的な育成に代替するものとして、外部からの調達は、1990年代の初め頃、魅力的に見え、機能していた。また、主要な基準ともいえるものだった。というのも、組織がレイオフされた人材の巨大なプールの上に描かれているとさえいえることができたからである。しかしながら、経済が成長すると、企業はますます人材を外部から採用するし、惹き止めの問題も生じてくる。ドアの外に歩いて出ていく労働力の果実を見ていると、雇い主は、人材育成への投資へと回帰するようになった。

医療機器メーカーのCEOは次のように話したことがある。

「どうして我々は、競合他社が我々のために人材を育成してくれるものだろうか? 1990年代半ばまで、主要な企業は、競合他社からよりよい人材を獲得し、その一方でその人材を惹き止めるものだと主張されていた。それは、個人レベルでは望ましい夢かもしれないが、全体としてみれば、不可能なことだ」。

 

1990年代の終わりには、外部からの人材調達は、不可避の限界に直面するようになった。米国は、歴史的な経済拡張期に移行していったからである。企業は、経験のある応募者を惹きつけ、同時に経験のある従業員を引き抜かれていった。外からの調達はますますコスト高になったが、とりわけ、ヘッドハンターを巻き込んでしまうと、そうなった。また、新人が内部昇進でブロックされてしまうと、惹き止めの問題が生じるようになった。適材の惹きつけと引き留めへの挑戦は、経営層がビジネスを考えるうえで関心事の上位になり、今日でもそれは変わらない。

白紙の状態でチャレンジに取り組んでいるということは大半の企業には良い知らせである。しかし、タレントマネジメントのやり方で、実際には(白紙の状態で)やるということはほとんどない。

最近の研究の1つに、例えば、3分の2の米国の従業員が何らの人員計画にないと報告されている。企業への助言は1950年代の実務に戻ってしまっていて、長期間のサクッセッションプランニングの計画を作り上げ、あまりにも将来に向けての、言い換えれば長期的過ぎるキャリアプランを計画するという悪い傾向がある。たとえ、安定的な事業環境と、そうした実践がもはや存在しなくなったタレント経路が存在しないとしても、それではミスマッチが起こってしまうだろう。

 

サクセッションプランニングへの伝統的なアプローチは、何年もかけて発達していくプロセスである。しかし、その期間も、組織のチャート、マネジメントチームは明確に変化していくだろうし、育て上げられた次世代の継承者がうまくいくかもしれない。

重要な空きポストが生じると、企業にとっての候補者がサクセッションプランによって確保されず、職務のニーズをもはや満たさないと結論付けることは稀なことではなく、結局は外部から探すことになる。

そうした結果は、無計画というよりよほどいろいろな意味で悪いことになる。まず、候補者が裏切られたと感じることで、サクセッションプラン(ポストが空けば、内部の誰かがそこに就くという期待)は暗黙の約束を創り出している。次に、候補者を育成する投資が本質的に無駄になることだ。第3には、大概の企業は今や、仕事が変わり、実在者が去っていくたびに毎年、サクセッションプランを更新しなければならないという羽目になる。たとえ、それによって莫大な時間と労力がかかるとしても。実際の問題として、毎年見直しをかけることは非常に実際的である。

 

タレントマネジメントは、それ自身だけでは完結しない。従業員を育成すること、サクセッションプランを創ること、一定の離職率に抑えること、また、その他の戦術的な成果を成し遂げることなどがある。

タレントマネジメントは、本質的にはビジネスは富を創り出す、組織全体の目的を支えるために存在している。富を創り出すことは、タレントマネジメント上の選択に関連させて利益とコストを理解することを要請する。組織人を育成するモデルに固有のコストは、1950年代には全く的外れなものだった。なぜなら、終身雇用の時代においては、あちこちに職を転々とすることは、失敗のサインであり、企業内で人材を育成することが当たり前だった。計画的な配置転換のようなジョブアサインメントのような、育成の仕組みが、深く組み込まれていて、それにかかるコストが問題にされることはなかった。

 

そうしたことはもはや現実ではない。顧客の需要や競合企業の動き、10%にも達する経営層の離職など、今日の火急な変化は、内部育成アプローチをあまりにも遅すぎて、リスキーなものにしてしまった。そして、一方では外部から調達するモデルはあまりにもコスト高で、組織を阻害するようになった。

 

タレントマネジメントの場合と違って、サプライチェーンマネジメントは、1950年代以来、劇的に進歩した。もはや、企業は、莫大な倉庫を持つことは必要なくなった。1980年代以降、企業が設立され、絶えざる洗練化がなされ、ジャストインタイムの製造プロセスやその他のサプライチェーンの変革が需要に応じてより正確に、かつ迅速に製品を供給するようにシフトするようになった。

 

製品の需要を予測することは、人材のニーズを予測することに対比される。最も安く、最も速く、製品を製造することを概算することは、費用対効果のよい人材育成、製造工程の一部をアウトソーシングし、外部化を図ること、世代交代に合わせてタイミングを合わせることと等しいと言える。内部育成の経路を管理することへの挑戦は、いかに従業員が仕事と経験を通じて進歩するかということであり、より迅速化され、ミスマッチを回避するように進展してきた。

 

タレントマネジメントに対する最も革新的なアプローチは、オペレーションとサプライチェーンマネジメントから導出された、4つの原理が活用された。そのうち2つは、需要サイドに向けられたものだ。すなわち、いかに製造と販売をバランスさせるか、また、人材に対する需要を予測するのにリスクを減らすか、ということだった。残る2つは、供給サイドに向けられたものだ。すなわち、いかに育成への取り組みにおける投資効率をいかに上げていくか、また、新たに訓練されたマネジャーを動機付ける機会を一般化する投資をいかに保護するか、である。

原理1:内製か外部調達かのマネジメントリスク

世紀半ばの製造業における主な関心事は、ある部分が欠落していた。人材の不足は、1950年代、1960年代の伝統的なマネジメント育成の仕組みにおける最大の関心事だった。その頃は、すべてのリーダーが内部育成だった。もし企業が、十分なプロジェクトマネジャーを生み出せなかったら、経験のない人が新しい役割に押し込まれ、プロジェクトを諦め、収入をみすみす失ってしまった。予測することは今日以上に容易だったが、完全なものではなかった。

人材不足を避けるには、故意に人材の需要の投影を通り越すしかなかった。プロセスが人材の過剰を創り出してしまったときには、何らかの機会があるまでは、比較的楽をさせて公園のベンチに置くしかなく、いうなれば、倉庫のスペアにしておくほかなかった。組織が人的資本の供給のクローゼットに等しく維持されるということは不合理に見えるが、組織人の時代においては、至って当たり前のことだった。

 

今日、ベンチに腰かけた人材がたくさんいることは、高い投資になりかねない。さらに、ドアの外へ歩いて行ってしまうことにもなりかねない。志のあるエグゼクティブは、ベンチに座っていようと思わないし、そうすべきでもない。さらに悪いことには、ワトソン・ワイアットの研究によると、トレーニングを受けた人々は、それによって習得した新しいスキルを活用する、よりよい機会を求めて去ってしまう、ということが示されている。

 

人材を内部育成することには今もって意義がある。なぜなら、それはコストが安く、障害が少ないからである。しかし、外部調達は、迅速であるし、機敏である。最適なアプローチは、2つを組み合わせていくことである。

 

最初に、人材の需要を正確に予測できるということは諦めるべきだし、長期にわたって、予測することは不可能であるという事実を認識しなければならない。1年当たりの予測のずれが33%にも達したとすれば、留めることなく組織のリストラをせざるを得なくなる。

ダウケミカルは、長期的な予測を諦め、短期間のシミュレーションに切り替えた。経営層の運営は、事業の需要から数年先について要請するようになっており、経営層は、しばしば事業構想を調整するように意思決定している。

 

運営マネジャーは、マネジメントの需要の曖昧さは統合的な部分が巻き込めるコストがどの程度なのかを知っている。しかし、人材を育成するコストはそれよりもはるかに大きいものは何か? 伝統的に、労働力計画は、暗黙のうちに、コストとリスクを想定してきた。つまり、翌年、100人のプログラマーがある部門で必要になるとしたら、10人は多すぎるということになるか、10人足りないということになって、リストラしないといけなくなる。

 

しかしながら、実際、そういうケースは珍しいことだ。1950年代のシミュレーションとの対比では、拡大していくほうが不足する場合よりもリスクが大きい。今や、簡単に労働者は去っていく。低く見積もったとしても、いつでも外部から調達できる。雇い入れのコストはより大きく、また、従業員の能力が不確定だというリスクがある。さらに、引き留めのコストもかかってくる。そこで、内部では90人を育成し、残りを外部から調達するということになる。

 

<内部育成と外部調達のトレードオフを評価する>

  1. 人材の必要とする期間はどの程度か?人材が長く必要とされるなら、内部育成は採算が合うことになる。
  2. 人材を必要とする期間をどれだけ正確に予測できるか? 予測がより不確定であるなら、内部育成のコストもリスクも大きくなる。外部調達するほうが多くなるだろう。
  3. スキルと仕事の階層はあるのか、仕事を覚えるのに相応の能力(コンピテンシー)が必要とはならないのか。あるいは、専門的に育成した役割なのか、コストをかけた投資を必要としないのか。これはとくに機能的な領域で言える。そうだとすれば、人材は内部育成するほうがよいということになる。
  4. 組織の現在の文化を維持することは重要かどうか。とくにシニア層で、外部調達すると、異なる規範や価値観が生じてくる。カルチャーが変わってしまう。組織文化を変えたいというのであれば、外部から人材を調達することになるだろう。時には、予期せざる方法で。

 

これらの設問に対する回答は、同じ会社で職能や職務などによって違ってくる。たとえば、低層部は容易に、また安いということで、外部から人材を調達するかもしれない。というのも、要求される能力(コンピテンシー)が高度のものではなく、比較的抑えめに需要を見積もることがコストになってくるからである。より高いスキルが必要な仕事では、需要を低く見積もることのコストがより一層高くなり、外部調達には多くの費用を要することになるし、新しく雇いれる人材の統合やミスフィットなどのリスクも大きくなってく

る。

 

原理2:人材の需要における不確定性への適合

 

もし必要な原材料を大量に購入し、倉庫に貯えておけるのであれば、たぶん、年間に必要な材料を調達し、製造し、年間の需要も予測できるということになる。しかし、しばしば少ない分量ごとに購入するとすれば、需要を予測する必要はなくなるだろう。同じことが人材調達に関しても当てはまる。

組織に新しいクラスの候補者を招くという問題を考えてみよう。大学から直接雇い入れる企業では、候補者全体としてはある時期においては貧弱なものになってしまう。オリエンテーションを行なうとしても、トレーニングクラスで時間をある程度割き、その後に、育成的な役割に移行する。100人の人をトレーニングするには、100人のトレーニング役の人材が必要になる。これは、プレッシャーになるし、コストを切り下げ、再組織化に向けたチャレンジである。

 

しかし、多くの大学卒業生は、卒後すぐに働きたいと思っているわけではない。6月に半分を確保し、半分を9月に確保することは難しくない。そのため、50人ずつのクラスでトレーニングをすることが可能になる。

 

原理3 いかに人材育成における投資採算を向上させるか?

 

内部人材育成は、マネジメント人材を創り出す唯一の方法だったとき、企業は、そのためのコストがどの程度のものか、企業は考えてみるということもなかった。コストは、事業運営上、不可欠のコストだった。しかし、今日の人材プールを小さくしている同じダイナミクスが企業にとっての機会となり、従業員をトレーニングするコストを小さくし、それによって投資採算を向上させるようになった。それはまさにR&Dにおける取り組みと同じである。

 

おそらく最も新しいアプローチは、従業員を、コストをシェアするものとして獲得することだろう。開放的な市場で経験に支出するとすれば、従業員は、その育成の主要な利益になる。すなわち、貢献するように要求すれば利にかなったものとなる。

米国の法では時間給の労働者が現在の仕事で要求されるトレーニングについてコストを負担させることを禁じている。しかし、時間給の労働者でも、将来の役割に支援するものであれば、この限りではない。

 

人々は、自発的にプロジェクトを学ぶためにコストを負担するし、通常の仕事に付加価値を添えることを意味する。候補者には多かれ少なかれ、通常の仕事をしていては、その報酬も増えていかないという想定があり、無報酬のプロジェクトにも参加するし、小さくない投資をする。

ピッツバーグにあるPNC財務局はいくつかの企業体の1つで、リーダーシップチームのプロジェクトのボランティアがある。時には、現在の職能領域の外の場合は禁じられているが。このような仕組みで、リーダーの経験を積んで、経験を拡げ、よい職業的な接点となっている。その経験はその後、役立つもので、報酬も増え、価値ある時間となる。

 

雇い主は、従業員をより引き留めることによって育成のための投資からペイオフを増やして実験するようになっている。少なくとも、20%の米国の雇い主は、従業員に訓練や育成的な経験を受けさせ、退職してしまってもそのコストが本人に払い戻されるという仕組みになっている。

 

より興味深い実践は、従業員に、辞めた後でも比較的小さな投資を行ない、繋ぎ止めておくというものだ。デロイトは、ファームで重要な育成を行なった、優秀な元従業員に資格を更新するための費用を負担している。これらの個人は、再び仕事に復帰することが期待しており、そのためのつながりを持ち続ける。

 

原理4 いかに雇い主と従業員をバランスさせる投資を保存するか?

 

人材のポータビリティの下落傾向は、もちろん、マネジメント開発の果実が腐りやすく、内部育成モデルの全盛期にもないということだ。それは、個人と仕事をマッチさせる、管理者と経営者がキャリア上の意思決定をするものになってきている。組織人の時代では、人材は長期的な組織の人材ニーズに合致するようにしていればよかった。従業員には選択肢はなかった。新しいポジションを拒むことは、キャリアを終わらせて移ることに相当した。

 

今日、従業員は、当然のことだが、自由にピックアップできるし、去ることもできる。有能な人材のほとんどは、最も自由である。引き留めの努力をしているのは、80%もの企業にもなるが、内部のジョブ・ボードに内部従業員が簡単に応募できるようにしている。ダウケミカルはその例である。

 

これらの申し合わせが効果的にキャリアマネジメントの問題を改めて従業員に振り向けている。結果として、雇い主は、内部の人材にあまりコントロールをかけないようになった。しかも、米国の場合、内部的な葛藤が増大した。半数以上の米国企業は、監督者が新しいポジションを求めて移っていくことを許容している。

 

 

(M-IT注)

キャッペリの論文を読むと、米国にかつては終身雇用があったとされている。そして、いろいろな経緯を経て、労働者が自由に他の企業のポストがあれば移っていくということに企業がむしろ前向きになるようになったという。

日本ではキャッペリの指摘を受ければ、まだ多くの企業は過渡期にあると言える。キャリアの問題を抜本から考えさせる論文でした。

なお、適宜、論文は冗長な部分をカットしています。

米国におけるタレントマネジメントの理解 ―SHRM(米国人事管理協会)の報告書を中心に―

米国人事管理協会(SHRM)、通称、シャームは、年次大会の名称自体を、Talent Management Conference としている。その領域として、コミュニケーション戦略、グローバル人材戦略、エンゲージメント&モラル、イノベーション、採用、人材の惹きつけと定着化などに分けてセッションを開催している。

本コラムでは、2006年に発表されたSHRMの調査報告書から、SHRMの問題提起するタレントマネジメントについて紹介したい。

今日のようなグローバル経済になると、企業は人的資本に継続的に投資をしなければならない。ビジネスパートナーの中でHRのリーダーが有能な人材を惹きつけ、雇い入れ、育成し、定着化させるように、シニアマネジャー(上級管理者)と共に働くようになってきている。しかし、スキル不足のために、社会経済的、また文化的な激変に直面し、人材の問題が浮上してきている。そのため、人口動態の変化、グローバルなサプライチェーン、労働力の高齢化、グローバルな移動の増大などがトレンドとなっており、先行きを考える組織は、最も良く働く人材に対するタレントマネジメントを再考しなければならなくなっている。さらに、組織文化、エンゲージメント、リーダーシップは、人材のリテンションに重大な影響を及ぼしている。これらの要因を考慮すると、タレントマネジメントに対して統合的なアプローチが必要であり、持続的で際立った事業成果に向けての道筋ともなるだろう。

HR(人事部門)が企業においてますます重要な存在価値を持ちつつあるということについてはほとんど満場一致するところであろう。ビジネスパートナーによって、言い換えると、事業業績をダイレクトに増進させるには、それ(HRの存在価値を増すこと)が最良の方法となっている。効果的なタレントマネジメントが実行されなくてはならないが、それは、変革を促し、戦略と付加価値のある活動に影響してくる。

競争が高まる市場では、タレントマネジメントは組織の成功を導く最優先のドライバーである。広く定義すると、タレントマネジメントとは、現在と将来のビジネスのニーズに適合したスキルと特性をもった人材を惹きつけ、育成し、定着化し、活用することによって労働生産性を向上させるように、組織をデザインし、戦略とシステムを統合する実践的な取り組みだということになる。

最近の調査によると、HRのエグゼクティブの85%が労働力(workforce)管理において、最も重大な課題は人材についての組織の競争力を創出し、維持することになってきていると回答している。当然のこととして、効果的なタレントマネジメントは今日、戦略的なテコの中で最も重要な点を提供している。

莫大な事業価値を求めるならば、タレントマネジメントは複雑になり、絶えず進化していかないといけない。経済情勢、グローバル展開、M&Aなどの外的要因に影響されて、効果的なタレントマネジメントの成功要件は、戦略目標について経営トップが積極的に参加し、HR管理を一体化させて実践していくようになっている。タレントマネジメントをめぐる共通の課題は、ずっとラインマネジャーの役割が人材を育成することになっていることである。主要な課題は、トップを巻き込むこと、組織文化、マネジメント、プロセス、そして、責任の明確化である。

組織はますますタレントマネジメントにフォーカスしてきているという報告がある。事後処理ではなく、事前対応になってきており、企業は、人材を仕事に没頭させることに躍起になっている。SHRMの2006年のタレントマネジメント調査によると、53%の組織がタレントマネジメントにおいて積極的に取り組んでいると回答している。これらの企業のうち、76%がタレントマネジメントを優先順位のトップに挙げている。さらに、85%のHRの専門家がタレントマネジメント戦略を実行している。

しかし、企業によっては、人材を同じようには定義していないかもしれない。人材に関する信念と末端に至るその影響は、タレントマネジメントの神髄である。タレントマネジメントをうまくやるには、組織全体に行き渡るようにしなければならないし、トップ自らがスタートしなければならない。トップのサクセッション計画だけではなく、企業は、各階層で各人が貢献するように人材に存在価値を見出さなければならない。本質的には、人材は組織を動かす伝達手段と言ってよい。

競争優位を勝ち取るには、人的資本に対する要求は、タレントマネジメントを突き動かしている。タレントマネジメント戦略は5つの主要な領域にフォーカスされる。人材の惹きつけ、人材の選考、人材の育成、エンゲージメント(人材の仕事への没頭)、リテンションである。賃金と福利厚生が従業員の惹きつけに主要なものとなるが、トップのリーダー組織はリテンションと人材の育成に重点を置くことになる。

労働需給は、タレントマネジメント戦略を突き動かしている。ますます進むグローバル化やバーチャル化、異なる世代が一緒に働くという状況、より長くなる勤続期間への期待、エンパワメント、自律的な労働力が職場を変化させてきている。

(中略)

タレントマネジメント戦略はダイバーシティと参加に向けた文脈も提供していくことになる。P&Gでは、人材の妥当な組み合わせがタレントマネジメントとなっており、大卒採用のためにリーダーが多く雇われている。

タレントマネジメントは近年、期待されるスキルの不足にも突き動かされている。すべての組織、産業、職域がそうではないが、組織は人材の獲得で競争状態にある。顧客サービス、ヘルスケア、ITサポート、技術分野などで人材の不足に直面している。

2005年の米国労働力調査予測によると、今後10年先は組織の規模によって人材の不足が変化していくと予想されている。すなわち、中小企業と同様に、大企業でも、人材獲得に悩むということである。

最終的には、事業戦略の鍵を握るのは、タレントマネジメントである。ますますグローバルな技術の専門家を必要とするようになれば、フォードのような企業でも、組織の戦略目標はそのための能力開発になってくる。企業のブランディングは、もう1つのタレントマネジメントの課題である。JPモルガンの例でいえば、「1つの企業、1つのチーム、一人のリーダー」というフレーズがある。

(中略)

タレントマネジメントで第1の責任を持つのはHRだが、その役割は、非常に多いが、人材のマインドセットをファシリテートすることはその最たるものである。HRは、組織の成功に向けたタレントマネジメントを一体として推進するようにリードすることになる。HRはトップと上級管理者がタレントマネジメントにコミットするように接近して働くことになる。タレントマネジメントのファシリテーターとして、HRは組織の文化が人材をサポートすることに関心を寄せなくてはならない。広義には、HRの役割は、タレントマネジメントの理念を喧伝し、業界における競争状態を知らしめることになる。加えて、HRには、タレントマネジメントに対して統合的で、前向きな戦略的アプローチを展開することが求められる。それはあたかも全体像のようなもので、離職率とその要因、リテンション対策などのような重要な情報を知らせるといったことが含まれる。

タレントマネジメントを統合していくには、HRは変革のエージェントにならないといけない。変化を促進するためには、採用、業績管理、リーダーシップ開発、組織戦略など様々な活動を展開することになる。このような役割において、HRは、4つのリスクを負うことになる。1つ目は、スキル不足やポジションに該当者がいないといった不足のリスク、2つ目が準備のリスクで、リーダー育成を加速し、スターになる構成員を育て上げること、3つ目には、変化のリスクで、組織に必要な人材を切れ目なく供給すること、である。4つ目が、ポートフォリオのリスクで、戦略的な人材のテコを最大化し、上級管理者に人材育成と業績指標の両方にコミットさせていくことである。

最終的には、優れたHRリーダーは、タレントマネジメントに対して包括的なアプローチを取る。タレントマネジメントのプロセスに関する期待基準を明確にし、オープンにコミュニケーションを図ることが重要である。HRが経営層や従業員に、なぜタレントマネジメントが重要なのか、どうすればうまくいき、どんな便益があるかを説明することで、タレントマネジメント戦略は一層、フェアなプロセスとみなされるようになる。

効果的なタレントマネジメントは人的資本を成果に対してよりコミットさせ、仕事に没頭する従業員を輩出し、離職率を低減させる。結果として、従業員エンゲージメントは従業員の生産性と人材の定着化に決定的な影響力を持つ。エンゲージメントのある職場は、HRによるコミュニケーションの質、深さ、真摯さに基礎づけられる。管理者の役割は、従業員の、仕事、組織、そして、チームに対するコミットメントに対して最も重要な仕掛け役になることである。タレントマネジメントは従業員エンゲージメントをサポートすることになるが、それには、ワークライフバランスやテレワーク、時短、報酬プログラム、業績管理システムなどがある。

報酬と称賛の仕組みは、人材のリテンションと業績向上の双方に効果的である。カールソンとギャラップの調査によると、従業員エンゲージメントとビジネスでの成功は、公式的な場面で折に触れて称賛(recognition)を受けて満足している場合であることを示している。82%もの人が称賛を受けることは仕事上の業績を向上させ、動機付けられると回答している。SHRMの2005年の報酬プログラムに関する調査でも、84%の企業が金銭的なインセンティブだけではなく、非金銭的なインセンティブを提供していることが明らかになっている。

従業員エンゲージメント構築のプロセスは過渡期にある。報酬と福利厚生を超えて、従業員エンゲージメントは、職務経験を意味あるものにし、やりがいのあるものにすることを通じて最高のものとなっていく。効果的な従業員エンゲージメントは見えるものと見えないものの組み合わせの要因となるが、刺激となり、育成を促進し、学習を促し、サポートし、貢献を促し、称賛の行為を拡げる環境を醸成する。しかしながら、最近の調査によると、十分にエンゲージしている従業員は5分の1に過ぎないことが明らかになっている。3分の2の従業員は適度にエンゲージしているに過ぎないことが明らかになっている。従業員の不満はいろいろな要因から起こってくる。過重労働や距離感、コミュニケーション不足、能力開発機会の不足などである。そうしたリスクは中程度にしかエンゲージされていない従業員のエンゲージメントを喪失させてしまう。HRはそこで、重要な役割を果たすことになり、人々に熱意、誇り、使命感を与えることになる。究極的には、従業員エンゲージメントと人材の定着化を決定することは組織文化である。

(中略)

タレントマネジメントに関する最近の動向としては、①アセスメント、②組織戦略とタレントマネジメントを連動させていくこと、③効果的に人材を測定するメジャー(measure)を開発すること、になってきている。

効果的なタレントマネジメントは、リーダーシップの強い参画を必要とする。また、タレントマネジメントでは、次世代の従業員エンゲージメントを図ること、シナリオ作りを行ない、人材のマッチングのためのデータベースを構築することが必要になる。また、タレントマネジメントでは、人材や業績に関する測定(metrics)やスコアカード、管理指標開発し、導入していくことが重要になってきている。

 

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